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アニメーションのツボ:キャラクターデザイン

京都造形芸術大学通信教育部には、2003年から2013年までアニメーションコースがありました。
アニメーションのツボは、通信教育部が発行している学習補助教材『雲母』に連載した記事で、アニメーションを勉強している学生さん向けに制作のヒントを紹介したシリーズです。

1.はじめに

 今月は、キャラクターデザインのツボです。
 ところで、皆さんはキャラクター(Character)という言葉に「文字」という意味があるのをご存じでしょうか。また、文字を表す英語がもうひとつあります。Letterです。このふたつの違いは何でしょうか。Letterはアルファベットなど表音文字を指し、Characterは漢字などの表意文字つまり文字自体が意味(性質)を持っている時に使います。キャラクターという言葉の中心には、「性質を持つもの」という意味あいがあるのですね。

 キャラクターデザインとは、そのキャラクターの性質をデザインするのだということを、まず意識しておきましょう。姿形はその性質に付随するものなのです。ですので、『雲母』9・10月合併号と11月号で確認した主人公と脇役の作り方をしっかりと踏まえることが肝要です。

 「○○したい」と思って行動するのが主人公だという基本は、もう大丈夫ですね。この「○○したい」が主人公の性質であり、これをビジュアル化するのがキャラクターデザインの肝になります。そして、脇役の場合は主人公の「○○したい」を引き立たせる性質とそのビジュアル化ということになります。

シナリオ講座(日本画)


2.光と影

 ここに主人公と脇役を作るときのコツがあります。それが光と影です。
 スイスの精神科医・分析心理学者のカール・グスタフ・ユング(Carl Gustav Jung, 1875-1961)は、人間の性格を光と影で説明しました。
 影(シャドー)とは、その人が認めたくない性格の一面です。本人も気づいていないことが多く、文字通り、光の当たらないその人の暗い側面のことです。自分が無意識に持っている欠点や未分化な部分です。
 ユングの説明で興味深いのは、苦手だったり毛嫌いしたり敬遠したりする他人の中に自分の影(シャドー)がある場合が多いというところです。そして、自分の影(シャドー)を統合することがテーマになっている物語が多いのです。
 『となりのトトロ』の主人公サツキちゃんの場合は、光が当たる表の性格は「お母さんの代わりをしっかり果たすお姉ちゃん」というものですが、その影には「私だってまだお母さんに甘えたい」という気持ちが隠れています。その影の部分が分離して、メイちゃんという脇役が誕生しました。

シナリオ講座(日本画)
(C) 二馬力

 この光と影の考え方をつかうと、複数の脇役をつくることも簡単になります。
 登場人物を増やすと、それぞれのキャラを立てる(個性を創る)のが難しくなりますが、光と影の組み合わせを増やしてゆくことで、可能になります。

 皆さんも良く知っている『ルパン三世』という作品がありますが、ルパンの光の部分(表に出ている特徴)を挙げてみると、「軟派な男でフランス人を祖父に持つ怪盗」というものが現れます。これを光にしてルパンに当てると、反対の特徴をもつ「硬派な日本人女性で警察官」といった脇役が誕生しますが、表の特徴のひとつひとつを別のライトにすると、以下のようなキャラクターたちが誕生します。

                  

  男      → ルパン → 女(不二子)
  軟派    → ルパン → 硬派(次元)
  フランス人 → ルパン → 日本人(五右衛門)
  泥棒    → ルパン → 警察官(銭形)


 『トイ・ストーリー』のキャラクターもみてみましょう。
 主人公のウッディは、「古い木製のカウボーイの玩具」ですね。これらの特徴を、個別のライトに分解してウッディに当てると以下の脇役たちが現れます。

                   

  男      → ウッディ → 女(ジェシー)
  古い木製 → ウッディ → 新しいプラスチック製(バズ)
  人型    → ウッディ → 動物(スリンキー、レックスなど)
  若い    → ウッディ → 年寄り(プロスペクター)
 

 光と影のキャラクターデザインという視点からみて興味深い作品群があります。いわゆるヒーローものと呼ばれる『ウルトラマン』『仮面ライダー』『デビルマン』、そして一世を風靡した『エヴァンゲリオン』。これらの作品に共通する特徴は何だと思いますか?

 これらの作品は、主人公(ヒーロー)が自分の影と戦って殲滅してしまう物語がベースになっている点が共通しています。

                       

  人間にとって良いよそ者   → ウルトラマン  → 人間にとって悪いよそ者(怪獣や宇宙人)
  人間にとって良い改造人間 → 仮面ライダー → 人間にとって悪い改造人間(ショッカーの怪人)
  うらぎり者の悪魔       → デビルマン   → 悪魔らしい悪魔(デーモン一族)
  人間が制御するよそ者   → エヴァンゲリオン → 人間の制御不能なよそ者(使途)
 

 先に影を統合する物語が多いと述べましたが、これらのヒーローは、自分の影(シャドー)を統合することができずにいるどころか、それらを、毎週々々殺すことを課せられています。つまり、自分の中にあるネガティブな部分を押し殺しているわけですね。
 だから、これらの作品は見終わった後にある種の後味の悪さが残り、視聴者はそれについて考えを巡らせることになるわけです。「正義って何なんだろう?」と。

 この問いかけが全面に出てきている回のお話しや脇役(影のキャラクター)は、特に視聴者の印象に残るものになっています。

 たとえば、『ウルトラマン』でいうと、第23話「故郷は地球」に登場するジャミラ。ジャミラは元宇宙飛行士(もちろん人間)ですが、宇宙飛行中に漂流して水の無い星に漂着します。そして、そこの環境に適応するために怪獣になってしまいますが、やがて地球にもどってきてしまいます。怪獣となってしまったジャミラはもう人間の敵としてしか扱われず、最後にはウルトラマンの水攻めで殺されてしまいます。

 また、『エヴァンゲリオン』では、17番目の使途として登場する渚カヲルです。彼はエヴァンゲリオンの影である使途として登場するだけではなく、主人公碇シンジの影であり友人としての役割も担わされています。ですから、初号機に乗ったシンジがカオルを殺すという展開は二重にショッキングであり、後味の悪い救われない気持ちが残ります。

シナリオ講座(日本画)
(C) 円谷プロ                      (C) ガイナックス

 
3.型を借りる

 さて、こうしたセオリーを使って実際にキャラクターをデザインすることになりますが、キャラクター(性格)をビジュアル化にあたっては、いくつかのツボがあります。

 ひとつは「型を借りる」というツボ、「真似る」と言っても良いでしょう。つまり、自分がこれから作ろうとしているキャラクターの性質と同じ性質をもった既存のキャラクターから、そのエッセンスを借りてくるという方法です。ここで重要なのは、形をそのまま真似るのではなく、一旦抽象化してから真似るという点です。

 スクーリング『硬いモノ柔らかいモノ』を受講された方は経験されたと思いますが、気になる物からくる印象を言葉にして抽出してみましょう。例えば、トトロを真似る場合、その姿形の見た目を真似てはいけません。トトロの性質を抽象化して 取り出してから真似るのです。つまり、大きくて、丸っこくて、柔らかくて、暖かくて、ボサボサしていて、たまにしか出てこない、といった性質を真似て自分なりにビジュアライズするわけです。

 真似る相手は、既存のキャラクターだけに限られるわけではありません。スクーリング『シナリオ設計』では、動物フィギュアを使って物語を作っていますが、動物の種がもっているイメージもまた真似る対象として有効です。昔話では動物や植物が登場人物となっているものも多いですが、これは動植物が持っている性質(キャラクター)を利用して物語を表現しようとした私たちの祖先の智恵の蓄積です。このあたりのことは、『モノ学の冒険』(鎌田東二編著、創元社、2009年)の中で詳しく紹介していますので、是非参考にしてみてください。

monogaku.jpg


4.強弱をつける

 ふたつめのツボは、強弱をつけること、つまり「デフォルメーション」です。
 型を借りて自分のキャラクターを描いたら、そのキャラクターの性質の中から強調するところと弱めるところをつくってみましょう。強調するところはより強く、弱くするところはより弱く。デフォルメーションは思い切って極端にやった方が魅力的なキャラクターになります。

 この時、主人公だけでなく脇役も一緒に作業を進めると更に良いでしょう。キャラクターは互いに相補的なものですから、セットで考えたほうがイメージが膨らみます。


5.推敲する

 最後のツボは「推敲」です。推敲とは、文章を読み直して書き直してブラッシュアップしてゆくことですが、キャラクターデザインでも何度も描き直しながら考えを深めてゆくことが重要です。

 絵を描くのは感覚的な作業だから一発で答えを出す(あるいは自分が好きな絵で良い)という考え方もありますが、こうしたやりかたでは直ぐに壁に当たってしまいます。実は、感覚にもロジックがあります。感覚的に考えることを身につけるのが成功の秘訣です。
 次回は、絵でテーマやメッセージを表現するためにはどうしたら良いかを考えてみましょう。

2010年12月号
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プロフィール

大西宏志 / Hiroshi ONISHI

Author:大西宏志 / Hiroshi ONISHI
大西宏志

1965年生まれ。映像作家。京都芸術大学(旧名称:京都造形芸術大学)情報デザイン学科教授。映像プロダクション、CGプロダクションのディレクターを経て2002年より現職。ASIFA-JAPAN(国際アニメーションフィルム協会日本支部)理事、比較文明学会会員、モノ学・感覚価値研究会アート分科メンバー。
www.onihiro.net

ONISHI Hiroshi

Born in 1965. Intermedia Artist. Currently a professor at Department of Design, Kyoto University of Art and Design. Took the position of image production and CG production director in 2002 until now. A member of ASIFA-JAPAN (Association Internationale du Film d’Animation - Japanese branch) and MONO-sophy (monogaku) /Sense-Value Study Group.
www.onihiro.net

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